“頭の良い、行動力のある、自由奔放な強い人”
それが私のTN君に対する印象である。
この本を読みながら、私は一生懸命、彼と一緒に考えた。
どうしたら彼の言うような国にできるだろう?
全ての人が平等な、そして自由の権利を持つ国に。
どうしたらこの日本の腐った政治を改革できるだろう?
私の考えなど追いつく暇もなく、TN君は先の先まで未来を見通し、色々なことを私に教えてくれた。


1847年、TN君は、土佐、今の高知県に足軽の子として生まれる。

その時代の世界情勢を調べてみると、
1700年代の終わり、産業革命に入ったイギリスは、資源と市場を求めて海外への進出を始め、
インドの植民地化の後、清国を屈服させ、香港を占領していた。
国内的には、選挙法改正など自由を求める声が高まっている。
フランスでは、1848年、「二月革命」が起こり、その影響により、
ドイツ、オーストリアでは「三月革命」が起こる。
そして、現在の世の中にも大きな影響を及ぼしているマルクスの「共産党宣言」も
この時、出されたのである。

後に、19世紀後半には、イギリスに続き、産業革命に入ったヨーロッパ諸国、アメリカは、
こぞって市場と資源を求め、海外進出を始めるのである。
とにかく、一口に言って、世界の大きな転換期であった。

作者、なだいなだ氏は言う。
「この50年間(19世紀後半)は、長い歴史を持った人類が、大きく生き方を変えた、
曲がり角のような時代だ。今の僕たちの生きているこの時代の、いいところも、悪いところも、
この時代にその大部分の根があると言ってもよいだろう」と。

そして、そういった世界的な動きの中で、日本も大きな転換を迫られていた。
1853年、アメリカの使節ペリーの率いる軍艦が浦賀に姿を現し、日本に開国を求める。
1854年、「日米和親条約」を結び、日本は「開国」を決意する。
TN君、6歳の時である。
1858年、「日米修好通商条約」締結。
オランダ、イギリス、フランスとも先の条約と同様の条約を締結。いわゆる五カ国条約である。
しかし、これらはいずれも、不平等条約であり、そこに長期に渡り鎖国を続けてきた日本の外交上における「無知さ」があるように思う。
「井の中の蛙」ではなかっただろうか?

一方、日本国内ではこうした幕府の勝手な動きに対して、反抗者も現れ始めた。
その弾圧のために起こったのが、「安政の大獄」であり、
その反動により起こったのが、「桜田門外の変」である。
世界的な動きの中で、日本も少しづつ、変化してきたのである。変化せざる得なかったのである。

「幕府を倒さなければだめだ。政治のしくみを変えなければならぬ」
若者たちはそう叫び、老人たちは言った。
「世の中変わった」

TN君はそう言った声を聞きながら育っていった。
彼がそういう中で、それらのものにどれぐらいの影響を与えられたかは、私にはわからない。
が、少なくとも、TN君の将来進み行く方向に一つの大きな指針を与えたと言っても、
言い過ぎではないのではないだろうか。
それは、彼がどうあがいても決して変わることのない封建制において
下級武士である足軽の子として生まれたことにもあるかもしれない。

私は思う。
若者と言えば私たちのことである。私たちの年代を中心にした人々のことである。
けれど、私たちは、TN君の時代の若者のように「政治の改革」を叫ぶだろうか。
否。
私の知っている多くの人たちは、私も含めて、政治に無関心である。

今の世の中があまりにも幸福だから?
まさか!

なだいなだ氏は言う。
「青年はどんな時代でも政治的な関心を持っている。未来は彼らのものだし、未来の社会をどのようなものとするかを考え、実践する政治が彼らの関心を引かぬはずはない。もし、青年が政治に無関心だとすれば、彼らは未来に絶望しているか、未来を見る暇もないほど、現在の生活に追いまくられているかだ」と。

一部の人々は、勉強に追いまくられ、そして、一部の人々は、未来に対する絶望感を言う。
「どうやったって変わらないよ、この世の中」

未来への絶望も現在の生活に追いまくられることも、片方だけでは存在しない。
「うまくできているナ」と私は思う。

誰も政治に関心を持たず、誰も政治を変えようとしなければ、もちろん政治は変わらない。
この政治体制の中で莫大な利益を得る一部の人々は、永遠に利益を独占し続け、
そうでない大部分の人々は、常に貧困から逃れられない。
なだいなだ氏の言葉は、何も青年に限った言葉ではない。
貧しい人々は、日々の生活に追われ、明日どうやって食べるかに精一杯である。
誰も政治をどうこうなどと考え及ぶはずもない。
裕福な人々は、莫大な利益をもとに、これでもか、これでもかと貧乏人を搾取する。
ゆったりと珈琲をすすりながら考える。どうやったらもっと搾取できるだろうか?

悪循環である。

「おかしいナ?どうして働いても働いても貧乏なんだろう?どこかがおかしい」そう考え始め、
それを行動に表せば、彼の先に待つものは「死」でしかない。
彼など虫けらにしか思わない一部の人々に押し潰されて、抹殺されてしまうのである。

全ての人々が、世の中に、現在の状態に疑問を持ち、何とかしなければいけないと思った時、
みんなの手と手が大きな輪に結ばれた時、初めて、革命が起こるのであろう。

TN君は革命を望んでいた。

1865年、TN君は、土佐の藩学校で勉強し、長崎に留学する。
1869年、長崎での勉強に限界を感じ、江戸に出る。
TN君、19歳の時である。
彼はフランス語を学び、1871年、24歳の時、岩倉具視の遣欧使節団の留学生の一人として、
フランスに渡る。
その時日本は、既に新しい時代、明治に入っていた。

留学中、彼は、「ルソー」の多大な影響を受ける。彼の自然思想に共鳴し、パリに流れる。
日本には存在しない、自由を、その権利を求める空気に触れ感動を覚えると同時に、
日本の「後れ」を痛感させられる。

約二百年間の鎖国は、日本と西洋との間に二百年の隔たりを作ったように思う。
日本はそのことに気づいた時、新しい政治体制の下に新しい日本を作るという目的を、
ヨーロッパやアメリカに負けない力をつけるという目的にすり替えてしまった。

なぜ?

ヨーロッパやアメリカの先進諸国に占領されないため、日本を守るためであった。
仕方がなかったのかもしれない。そうしなければダメだったのかもしれない。
そして、彼らが守ってくれた日本はここにある。
どこかの国によって占領されることもなく、ここにある。

明治維新は、被支配者階級の革命ではなかった。
近代社会への転換を迫られた支配者階級が行なった改革だった。
彼らの頭に「国民」はない。
「国」のみが存在する。
「国」を守ることが何よりも先決だった。

だが待てよ。
国を守らなければ国民を守れない。
やっぱり仕方がなかったのだろうか?
両方を一緒にすることは不可能だったのだろうか?

明治政府成立以後の中央集権を目指す諸改革は、
1871年の廃藩置県、1873年の徴兵令の制定、地租改正条例の発布などなど、
どれも農民を苦しめるものであり、彼らの生活を向上させるなどということからはかけ離れていた。新政府に対する不満は、数多くの「一揆」という形で表れた。

一方、封建制の崩壊による士族の身分的特権の喪失、それによる生活の窮迫も、
明治政府に対する不満として爆発し、1876年、佐賀の乱、1877年、西南戦争が勃発する。

これらはいづれも、政府によって鎮圧されるが、
その時、西南戦争を起こした中心人物である西郷隆盛を批評した、TN君の言葉が印象に残る。

「いいかね、西郷が立ったのは仕方がない。彼は追い込まれたのだ。彼は機を見て行動する人間ではない。義のために行動する古い武士だ。それが彼の人望の支えになっている。機を見、行動する大久保には、人望がない。だが、義によって行動するものは、機を選べない。わかるかね。人間にはそうした二種類の人間がいる。西郷は失敗する。それは彼自身もわかっている。それを知りながら立ったのが西郷なのだ。そしてそれを知りながら加わっているのが、西郷軍の若者だ。だから成功は覚束ない。しかし、それが意味のないことだといったら間違いだ。彼は革命をしようとしているのではない。抵抗だ。抵抗には抵抗の意味がある。しかし、君が革命を考えているのだったら、それは、この後にしかこないだろう」

自由民権運動が活発化し、国会の開設を要求する。
民撰議院設立建白書が、板垣退助、後藤象二郎、副島種臣、江藤新平らの手により政府に提出されたのは、1874年1月のことだった。広がる自由民権運動に対し、政府は直ちにその弾圧を始める。
新聞紙条例讒謗律の制定がそれである。

しかし、その弾圧をも超え、1880年、国会期成同盟となった愛国社(自由民権を主張する政治結社)は国会開設請願書を政府に提出する。
TN君がその論理的指導者として活躍し始めるのもこの頃である。
TN君は、新聞に、本に自由の主張を書きまくる。

国会の開設は約束される。そして、その約束通り、1890年、第一回帝国議会が開かれた。
しかし、それはTN君が望んだものとは違っていた。

結局、TN君の力は及ばなかった。
歴史の流れの中では、TN君の力はあまりにも小さかった。
それにもまして、体制は、長い歴史のなかで培われたきた精神は頑固だった。
そして、農民はあまりにも、世界に対して、政治に対して、無知だった。

革命は下から行なわれた時、初めて成功へと結びついて行く。
その時には、農民は無知であってはいけない。

全ての人々が政治を理解し、真の平和を求めて立ち上がるのはいつなのだろうか?
まだ、あまりにも私たちは無知である。





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