一瞬で心奪われるもの、がある。

それは美しい景色である場合もあるし、魅力的な誰かである場合もあるだろう。
また、絵や写真、音楽や歌、などの芸術作品ということもある。

この演奏も、またそのひとつだった。
最初の音から、心がとらえられた。
ただ、聞き入った。
何故なのか?
どこがよかったのか?
その時には、ただ、動きを止め、全身を耳にしていた。





これは1961年11月13日、カザルスがホワイトハウスで行った演奏である。
曲目は、『鳥の歌』 (El Cant dels Ocells)


この10年後、1971年10月24日、カザルスはニューヨーク国連本部において再び演奏する。
曲目は、同じく『鳥の歌』 (El Cant dels Ocells)

この時、94歳。

演奏前のスピーチで、

「私の生まれ故郷カタロニアの鳥はピース、ピースと鳴くのです」と声を震わせる。







94歳でこの演奏。

ふと肥田舜太郎先生のことが思い出された。
カザルスというこの演奏家に俄然興味が湧いてしまった。


(以下ウィキペディアより)

パブロ・カザルス(スペイン語:Pablo Casals、カタルーニャ語:Pau Casals)
1876年12月29日 - 1973年10月22日
スペインのカタルーニャ地方に生まれた。チェロ演奏家、指揮者、作曲家。
カタルーニャ語によるフルネームはパウ・カルラス・サルバドー・カザルス・イ・デフィリョ(Pau Carles Salvador Casals i Defilló)。

チェロの近代的奏法を確立し、深い精神性を感じさせる演奏において20世紀最大のチェリストとされる。
有名な功績として、それまで単なる練習曲と考えられていたヨハン・ゼバスティアン・バッハ作『無伴奏チェロ組曲』(全6曲)の価値を再発見し、広く紹介したことがあげられる。

早くから世界的名声を築き、ヨーロッパ、南北アメリカ、ロシアなどを演奏旅行して回った。
指揮者フルトヴェングラーはチェロ奏者としてのカザルスへ次のような賛辞を残している。

「パブロ・カザルスの音楽を聴いたことのない人は、弦楽器をどうやって鳴らすかを知らない人である」。

カザルスは平和活動家としても有名で、音楽を通じて世界平和のため積極的に行動した。


カザルスは、スペイン内戦が勃発するとフランスに亡命し、終生フランコ独裁政権への抗議と反ファシズムの立場を貫いた。
各国政府がフランコ政権を容認する姿勢に失望し、1945年11月、公開演奏停止を宣言する。

1950年代後半からはアルベルト・シュバイツァーとともに核実験禁止の運動に参加した。

カザルスがカタルーニャ民謡『鳥の歌』を演奏し始めたのは、第二次世界大戦が終結した1945年といわれる。
この曲には、故郷への思慕と、平和の願いが結びついており、以後カザルスの愛奏曲となった。


信念の人。
という言葉がふさわしいように思う。
自分の信じることに従って行動する人。

そういえば、小出裕章先生もそうだな~と思う。
自分の思いを曲げて、何かにおもねることをしない。

カザルスは公開演奏停止という形で、反ファシズムの立場を貫いた。
こうした経歴を読むと、
その心意気と人となりは生み出す音色にも反映されているに違いない。
それゆえに心惹かれたんだ。
と理屈をつけたくなる。

いずれにしても、どうやら、私は、平和を愛する頑固者が好きらしい。



【追記】2015年5月25日

Twitterで大好きな方から、カザルスの母の素晴らしい言葉を教えてもらった。
以下、調べたもの。



母にとって最高の掟は個人の良心だった。
母やよく言ったものだった。
「私は法律は重んじないのが主義のようです」
また、母は法律には役に立つのもあるが、そうでないものある、だから善い悪いは自分で判断しなければならないとも言っていた。母は特定の法律はある人たちを守るが、他の人には危害を加えることを知っていた。今日のスペインでは法律によって守られるのは少数者で、多数の庶民は法律の被害者である・・・母は常に原則に従って行動し、他人の意見に左右されることはなかった。己が正しいと確信することを行ったのである。

弟のエンリケにスペイン陸軍から召集令状が来たとき、
「エンリケ、お前は誰も殺すことはありません。誰もお前を殺してはならないのです。人は、殺したり、殺されたりするために生まれたのではありません・・・・。行きなさい。この国から離れなさい」
それで弟はスペインを逃げ出して、アルゼンチンに渡った。だが11年間、母は弟と合わなかった。・・・私は思うのだ、世界中の母親たちが息子たちに向かって、「お前は戦争で人を殺したり、人から殺されたりするために生まれたのではないのです。戦争はやめなさい」と言うなら、世界から戦争はなくなる、と。

(『パブロ・カザルス 喜びと悲しみ』 アルバート・E・カーン著、14ページ)