朝、PCを立ち上げると、父がいる沖縄の施設からメールが入っていた。
(2018年7月25日 ポルトガル時間)

24日、朝方、父がいつもの背筋の運動をしている時、背中に「バキ」という音がして痛みが走り、
その後、冷や汗が出て具合が悪くなったということだった。

「本日、午前5時過ぎにお父様が腹筋、背筋を行っていた際、背骨から音がした後から痛みがあり気分不良、冷や汗もあるため病院受診を希望され整形外科を受診しましたが、背骨に関して骨折所見なし、内科受診し採血、心電図、胸部レントゲン検査実施しましたが、心電図では不整脈があり、心臓肥大などなし、採血はまだ検査結果がでていないため、はっきりとした診断はついていませんが、再度、心電図検査を行うよう平良先生から指示が出ましたので、明日、また心電図検査を実施します。
背中の痛みは良くなってきているが冷や汗がまだでるとお父様が仰っています。食事はきちんと食べれています。
明日、病院を再度、受診しましたら結果を報告致します。」

メールを読み、すぐにケアマネのMさんに電話を入れた。
その時の段階でわかることはメールの内容以上のことではなかった。
翌日の検査結果報告の連絡をお願いして電話を終えた。

翌朝、連絡を待っていたが何もなかった。
すぐにでも連絡を入れたかったが、時差もあるため、
朝に電話をするタイミングを逃すと、夜遅くまで待つしかない。

ポルトガル時間の27日朝、急ぎ電話を入れた。

電話口に出られたMさんはとても慌てていらっしゃった。
「メールを見てくださいましたか?」
開口一番そう仰られたが、私はメールを確かめるより先に電話を入れていた。
お話をしながら以下の2通のメールに目を通した。

「突然で申し訳ございませんが、至急を要するかもしれないと思い連絡しております。昨夜、お父様さんが背中の痛みを訴え痛みどめ服用したいと希望され、看護指示にて痛みどめを服用され、本日(7/27)午前8時15分頃、お父様さんより、背中の痛みがまだ継続しているので病院受診希望、看護師と共に午後13時頃より南部医療センターを受診されています。検査にて大動脈瘤があることがわかりました。本人承諾の上、造影剤検査を行っております。
検査結果によっては、入院になることもあると看護師より報告がありましたので、急ぎ連絡を入れております。
検査結果はまだ出ておりません。もし、入院になるようなことがありましたら連絡を致します」

「先程、病院付き添い看護師より連絡があり、大動脈瘤ではなく背中の太い血管が裂けていたと診断され入院となりました。
手術は行わず血圧を下げながら治療を行うことになりました。
入院になりお父様も不安だと思います。
できましたら、急ぎこちらにお越し願いたく連絡しております。」

背中の太い血管が裂けたというのはどういう状況であるのか確認してみたが、
Mさんもまだはっきりと状況を把握できていらっしゃらないらしく、
それ以上の言葉はもらえなかった。
こちらは今27日の早朝であるので、これから飛行機の手配をし、
到着時間がわかり次第連絡をしますとお返事し電話を切った。

急ぎ、出発の準備をし、28日午前1時ごろ家を出て空港へ向かった。
日本へ向かうフライトに乗ったのは早朝だった。

以下、父の状況を箇条書きにまとめる。

7月24日
6時、背筋の運動中に背骨にズキーンという痛みがあり、その後、冷や汗が出る。
2016年に圧迫骨折をしているので、まず骨折を疑い整形外科へ。
9時、整形外科受診。レントゲン撮影の結果、骨折の所見は認められず。
自覚症状から心臓疾患の可能性があるため内科の受診を勧められる。 
その足で、内科のある病院へ行き採血、心電図、胸部レントゲン撮影施行。
上室性期外収縮(不整脈)が認められた。

7月25日
朝、再度、病院にて心電図検査施行。

7月26日
夜半、背中の痛みを訴える。

7月27日
父本人の訴えにより、循環器での診察へ。
背中の違和感、便秘を訴える。
胸部レントゲン、採血、腹部エコー、血管造影CTにて背部の動脈の裂傷を認め入院、ICUへ。


私が日本に到着したのは、29日の夜だった。
二度の乗継。フライト間の待ち時間がひどく長く、その上、台風による遅延があったため、
ふらふらになり施設に辿り着いた。
翌日、父に会いに行った。
父は思いのほか落ち着いており、意識もはっきりしていた。
特に痛みや不快感があるわけではないとのことだったが、
自身の状況がわからないことをとても不安に感じていた。

病室に残されていた「入退院支援計画書」から父の病名がわかった。
B型大動脈解離。

直ぐにでも主治医の先生から詳しいお話を伺いたかったが、
その日のうちには無理であろうことはわかっていた。
急ぎ看護師に担当医師との面談をお願いした。

長時間のフライトの後で私自身もくたくただった。
これから父を診るのに私が倒れていてはしようがないので、
そうそうに病院を後にした。

買い物をして施設に戻ると病院から連絡が来た。
その日の夕方になら先生が話し合いのための時間が取れるということだったが、
再度伺う体力はなく、翌日にして頂いた。

翌日の先生との話し合いに備え、大動脈解離についてネットで検索した。



【大動脈解離】
心臓が絞り出した血液を全身に送り届けるパイプが動脈ですが、
この動脈の中で最も太い部分を大動脈と呼びます。
この大動脈は高い血圧(血液の圧力)に耐えるため3層構造となっており、
大変頑丈にできています(図1)。


mhp_stent_aortic01



しかし諸々の理由で、この3層構造のうち、中膜(まん中の膜)と内膜(一番内側の膜)が弱くなり、
大動脈の内部を流れていた血液が内膜にできた裂け目(エントリー)を通り、
中膜層(内膜と外膜の間)に入り込むことがあります。
中膜層に入り込んだ血流は勢いが大変強いため、
大動脈の壁を縦方向(末梢方向=足側)に裂いて行きます(図1)。
これを医学用語で大動脈解離と呼びます。

多くは胸部の大動脈に裂け目が始まり、腹部大動脈まで拡がります。
骨盤レベルに達することもしばしばあります。

このように解離した大動脈は片側が外膜1層のみとなっているため、血圧に耐えられず、
途端に破れてしまう(大動脈破裂)ことがしばしばあります。

また、大動脈解離の裂け方によっては真腔(もともと流れていた腔)が偽腔(裂けてできた腔)に押されて血流が悪くなり、内臓や全身への血行障害を来たし、死亡することもあります。

大動脈解離は大動脈が裂ける場所によって2つに分類されます。
上行大動脈(心臓を出てすぐの大動脈)から裂けるタイプがスタンフォードA型(図2a)、
上行大動脈は裂けず、背中の大動脈(下行大動脈)から裂けるタイプがスタンフォードB型です(図2b)。


mhp_stent_aortic02




とりあえずの知識を得、翌日担当のお医者様と面会した。
父の場合、内膜の亀裂が30cmほどあるということがわかった。
現段階では手術はせず薬で血圧を調整するとのこと。
定期的に検査をし、状況に応じて対処するとのことだった。
とりあえず、最悪のケースは避けられたようでほっとした。

退院まで何度かお見舞いに行き、8月8日退院になった。
次回の検査は約ひと月先の8月5日と伝えられた。


9月5日、再診。
驚いたことに父の症状は改善していた。
内膜を破り流れ出た血液は血栓となっていたが、その血栓が小さくなっており、
これはとてもよい兆候とのことだった。
このままの状態を保つようにしてくださいと言われ、次回の診察は3ヶ月先、12月の初めになった。


父は昭和2年生まれ、今年(2018年)91歳。
ものすごい回復力である。

2017年冬、大腿部頚部骨折をし手術をした。
元のように普通に歩けることはなく、恐らく、杖歩行になるだろうと言われたが、
父は元のように歩けるまでに回復した。
もちろん、父自身のリハビリの努力もあるだろう。

我が父ながらあっぱれである。